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徒然なるままに

【感想】五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後

詳しいあらすじは他の人に任せるとして、感想だけ記しておこう。

1人の人の選択の積み重ねが、未来のその国を形作る。 そのときは必死だけど、振り返ってみればターニングポイントだったなんて。 歴史はそういう風に積み上げられていくのだろうか。 勿論、政治的な要素も多分に絡んでいるのだが、結局個々人の選択の結晶であることからは逃れようがない気もする。

そして、この本を読むと、言論の自由が保障されていることの切実さが伝わってくる。 言論の自由を奪われるというのはどういう状態なのか。 それは、体制を批判することと自分の命を天秤にかけられる状態なのだ。 当時の満州では、体制を批判すれば、拘束され、尋問され、拷問を受け死ぬこともある。 どこかに密告者がいないか怯え、自分の身を守るために身を隠す人もあれば、逮捕され、自分は死なずとも大切な友人を失う人もある。 その状況の過酷さが、被支配者側の生の言葉で綴られていた。 その状況を想像するだけで、喉に何かつかえたような気分になる。 自由は、現状を保つこともすれば、打破することもできる。 でもそれも、自由があってこそ成立しうることなのだ。

「衝突を恐れるな」とある建国大学出身者は言った。「知ることは傷つくことだ。傷つくことは知ることだ」

コミュニケーションは本質的に、傷つくものだ。 誰も傷つかない「やりとり」なんて、存在しない。 誰かの行為、言葉、態度、それらに傷ついた自分に気づき、はじめて前へ進めるんだ。 そして、そういうコミュニケーションをするためには、自由が不可欠なんだ。

久々に良い本に出会えたと思った。